Thanksgiving Break

Thanksgiving Break入り。大学は26日まで休みになるけど、また始まったら2週間でファイナルウィークになるのでペーパー書きを進めておかなければいけない。とりあえず、大江健三郎の作品と評論をどんどん読んでいく。

取り替え子 (講談社文庫)

取り替え子 (講談社文庫)

面白い。大江自身をモデルとした古義人が語り手。彼の少年期からの友人である吾良(伊丹十三がモデル)が突然飛び降り自殺をするというところを起点にして、現在と過去を交錯させながら、彼ら二人の人生をめぐる様々な出来事をおっていくストーリー。死の前に吾良は30本ものテープを残すが、古義人はその古びた形状から「田亀」と呼び為すテープレコーダーでそれらを聞きながら、吾良と対話を交わしていく。「田亀」が、人々が街で手にしている携帯電話と比較される箇所があるのだが、それはより不完全なコミュニケーションのツールでしかない「田亀」がより強く、持続的な対話の可能性を広げるということを読者に気づかせてくれる。それは読むこと一般についてのアレゴリーといえるかもしれない。古義人は自らをメランコリーからいくらかでも解放するためにドイツへとおもむくが、それはまたベルリン映画祭にかつて参加した吾良へと接近する旅だとも言え、実際彼はそこで多くの過去の痕跡に出会うことになる。終章は古義人の妻(彼女は吾良の妹でもある)の視点から書かれ、モーリス・センダックの民話に基づいた絵本を参照枠として、「取り替える」事の倫理的な責任をめぐる考察へと向かい、未来に向けての希望を持った祈りで閉じられる。

大江健三郎・再発見

大江健三郎・再発見

大江の自作を振り返る書き下ろしエッセイと、小森陽一井上ひさし三者で行われた懸談、さらに国際シンポジウムの記録からなる小さな本。



批評関係の本のレベルは驚くほど低いものが多い。あまりにsympatheticなものと、下らない批判本。特に後者については大江自身が、『取り替え子』の作中で触れているが、こんなの気にする必要ないのに。