ボルドーの義兄

多和田葉子作。細部にまで神経の行き届いた作品で、今の文芸誌の状況からすると実に孤独な達成といえるだろう。これが30年前だったら、数倍の読者に恵まれたはずなのに。外国語を学ぶことが、子供のような無防備さに自分を差し向けるような行為であるということが、主人公優奈の目や身体を通じて語られる。ハンブルクボルドーという土地の相似性。どちらも人々が海に面した都市だと勘違いしているということに何度も触れられているけど、たしかに僕自身、これらの都市はもう少し海に近いと思っていた。実際は、どちらも海へと通じる川の岸辺に広がる町である。その距離がコミュニケーション/ディスコミュニケーションアレゴリーになっているように感じた。海からの懸隔。全体に液体に関わる比喩が多く、最初の断章は人の流れが液体のようにとらえられるし、水着にも何度か言及される。

図書館で調べてみたら、この本はドイツ語で先に出たようだ。