始めと終わり、サイード

ベートーベンの後期ソナタをまとめて聞いて、晩年のサイードの優れた論文を思い出す。思えば、サイードのデビュー作は始まりについてのものだったから、彼は自らのキャリアの始めと終わりを、それぞれ始めと終わりをめぐる思考に見事に一致させたわけだ。個人的にはポストコロニアリズムの巨人としてのサイードよりも、作品が始まり終わるということの不可解さに戸惑い、仔細に検討してはひたすら驚いてみせるサイードのほうが僕には魅力的だ。生起と消失について思考するサイード