翻訳論

Nation, Language, And The Ethics Of Translation (TRANSLATION/TRANSNATION)

Nation, Language, And The Ethics Of Translation (TRANSLATION/TRANSNATION)

近年の翻訳論ブームのとりあえずのまとめの感のある本書。この分野の書物はそんなにたくさん読んでいるわけではないけれど、ここ10年くらいに論じられてきたことはだいたい出ていると思う。翻訳論は古典的には、「忠実」「裏切り」という二項対立によって論じられることが多かったが、近年の問題のとらえ方は「他者−主体」の関係としての翻訳、またその発展として、倫理としての翻訳、である。巻頭はEdward Said、、、しかし、これは他の本に収録された物をさらに収録していて、かならずしも本書の意図にそぐわない論文。しかもここで論じられている「知識人」像は、『知識人とは何か』で論じられているものと同じ。もちろん、論旨は明確で妥当、文章も例のごとくうまいが、いくらなんでも反復しすぎだ。(デリダを叩こうとする人はたくさんいるのに(多くの場合的外れだとしても、だ)、どうしてサイードはいつまでも「正しい」人なんだろうか?)

一番ラディカルなのは、Samuel Weberで、この人はあの聖書の「光あれ」というoriginalの概念のうちに歴史性=翻訳(なんで、この二つがイコールなのかというと、Weberにとって翻訳とは国境を越えるといった空間的なイメージではなく、時間的な差延として捉えられているから)を見ようとしている。後半ではベンヤミンにつないで、翻訳と原典の触れ合う一点が離れる一点でもあるという。デリダが用いていた「リズム」の概念も出てきて実にスリリング。YAY!