池澤夏樹 『イラクの小さな橋を渡って』

開戦の直前にイラクにわたった著者が、見たこと感じたことをありのままに綴った、静かな反戦紀行文。食べ物の描写や、子供たちの歌などの描写を通じて、生き生きとした暮らしの風景が伝わってくる。小説家ならではの現実感覚があふれていて、読む人の胸を打つ。これが書かれてから4年。イラクの政情はますます不安定になり、治安は悪化、死傷者の数は増大した。撤退もままならず、アメリカは更なる増兵でこの困難な事態に対処しようとしている。戦争のもたらした荒廃を、私たちはどのように受け止めるべきだろうか。
 なお、英語版、フランス語版、ドイツ語版が、impalaというホームページで手に入る。僕は海外に住んでいるので、このサービスを利用させてもらった。英語版で読んだが、非常に端正な訳だと思う。