ネルヴァル、モーパッサン

最近、フランス語の練習もかねて、比較的平易なフランス語で書かれている作品の多い、ネルヴァルやモーパッサンの作品を読んでいるのだけど(ネットでテキストが簡単に手に入るからというのもある)、いやー、なんていうかロマンティック。なんてロマンティックなんでしょう、彼らは。久しくこのレベルのロマンティシズムというのには接触していなかったなあ、と思った。大学、大学院を英文科で過ごした経験で言えば、英米文学にはここまで露骨にロマンティックな作品というのは存在しないか、存在したとしても粗悪品と見なされている。特にアメリカ文学は何が弱いといってロマン派が弱いので、メルヴィルもある意味でロマン派だが、あれは男のロマン派というか、海は男のロマンだぜ系であり、ホーソーンでは宗教がロマンに結局勝ってしまう(もちろん、「ロマン派」などというのは結局の所90パーセントは「男のロマン」であるのだが、それは置く)。それに比べて、このフランス文学の容赦のないロマンティックぶりにはまいった。モーパッサンなんて自然主義に分類されるし、たしかに自然派的な結構を持っていることが多い作家なんだけど、ゾラに比べると明らかに足腰の弱い感じがするとずっと思っていて、今回短編をたくさん読んでみて気づいたのは、ああ、この人はこんなに愚直にロマン派なんだ、ということ。とにかく、「愛」が最上の価値を有するのである。
 フランス文学のロマンティシズムは、結構俗に理解されているようなロマンティシズムに近いと思う。それに比べると、ドイツ文学のロマンティシズムというのは、もっと病んでいて、たとえばクライストなんか、結構むかし熱中したのだけど、神経症っぽいというか、妄想が現実に勝利するというか、そんな感じである。ああ、思い出した。ノヴァーリスノヴァーリスはもっとすごい妄想系だと思う。ノヴァーリスの専門家になんかなったら人生が裏返ってしまって、幻想が現実で現実が幻想みたいな感じになっちゃうと思う。ノヴァーリスを二冊続けて読んだことがあったが、もう本当に気持ち悪くなった。
 で、この手のが嫌いかというと全然嫌いじゃない。もちろん、ネルヴァル、モーパッサンのあからさまのロマンティシズムに感動できるほどもはや純情じゃないので、涙を流しながら読んだりは出来ないのだけど、主人公の片恋とかっていうのは結構気になるもので、「お前さん、それじゃあまりにロマンティックだなあ」などと心の中でつぶやきながら読めてしまうのである。主人公が森に入って行ったりすると、だいたいいいことが起きるのでわくわくしたりもする。まあ、そんな日々。